番外編: RTX 4090の「アンロック」でTensorコアの半速制限を外す話——当方は試していない参考情報

このページについて。 当方はこれを試していません(当方のRTX 5060 TiはBlackwell世代で対象外、M5 Macには関係のない話です)。ここに並べるのは、公開されている一次情報の所在と、そこに書かれている数字と条件の整理です。導入の手順は載せません。非公式・保証外の改変で、試される場合は個人の責任でお願いします。

当方はふだん、M5のMacBookとRTX 5060 Ti 16GB×2枚のデスクトップで、ローカルの動画生成を記録しています(記事マップ)。このページを作ったのは、「中古の4090が、AIの演算で最新の5090を超える」という話が、当方がいつも比べている機材の土俵に入ってくるからです。ただし見出しの「5090超え」は条件つきで、実際のアプリの伸びはもっと小さい、というのがこのページの中身です。

最終更新: 2026年10月26日(RTX 30・RTX 20シリーズの数字を追記)

1. 何が起きたか

2026年10月21日、海外の開発者がRTX 3090でTensorコア(AIの行列計算を担う部分)の速度制限を外すLinux用のモジュールを公開しました。10月24日にRTX 4090向けの版が公開され、「BF16の演算が165から331 TFLOPSへ」という実測値がX上で広まり、10月25日には日本語でも「アンロックした4090が5090を遥かに超える」という形で拡散しました。

日付(2026年)誰が何を
10月21日@superalesha(Zagitta)RTX 3090でTensorコアの制限を外す「gpu-unlock」を公開(Ampere世代向け)
10月22〜23日複数の利用者3090・3080 Tiでの再現報告。LLM・画像生成・学習での伸びを各自が測る
10月24日JustAResearcherRTX 4090向けの「gpu-unlock-ada」を公開(GPL-2.0)
10月24〜25日@AiXsatoshi・@murasametech ほか「4090標準≈165 / 5090公称≈210 / 4090アンロック≈330 TFLOPS」のグラフが日本語圏で拡散
10月25日hwbusters・dev.to・vramcalculator技術解説記事。cuBLAS(実アプリ寄りの行列積)の実測を掲載

グラフの読み方。 「330」は4090の命令レベルの実測値、「210」は5090の公称理論値で、測り方が違います。どちらもBF16(FP32累積・Dense)という同じ種類の数字ではありますが、「4090が5090を遥かに超える」は、この一つの指標の上での話です。実際のアプリでどれだけ速くなるかは、3節に分けて書きます。

2. 土台になっている技術

GeForce(ゲーム向け)のTensorコアは、FP16/BF16でFP32に累積する計算が、同じ世代のデータセンター向け製品の半分の速度に制限されています。4090で言えば、FP16累積なら330 TFLOPSなのに、FP32累積(AIの学習や多くの推論で使う形)は165に落ちる、という仕様です。今回のモジュールは、この制限を起動時に外します。

部品作者役割
gpu-unlockZagitta(@superalesha)Ampere世代(3090など)向けの元祖。Linuxのカーネルモジュール
gpu-unlock-adaJustAResearcher上のフォーク。Ada世代(4090)向け。GPL-2.0
AD103_win_unlockerTOTORONGWindows向け。USBから起動前(UEFI)に適用する方式。gpu-unlock-ada の「ペイロード」(GPUに流し込む小さなプログラム)の元でもある

動き方はこうです。

  1. NVIDIAのドライバより先にモジュールを読み込む(ドライバが一度でもGPUを触った後では動かない)。
  2. NVIDIAの署名済みファームウェアに小さなペイロードを添えてGPUに流し、制御用のレジスタ2か所を書き換える。
  3. PCIeのリセット(FLR)をかけて、その後は通常のドライバがそのまま動く。

VBIOS(GPUに焼き込まれた基本ソフト)は書き換えません。ファームウェアは、固定した版(610.43.03)のNVIDIAドライバに含まれる部品から、利用者の手元で生成し、内容のハッシュで照合します。

対象は次の通りで、それ以外は読み込みを拒否する作りです。

カード状態
RTX 4090対象(作者が自分の1枚で確認)
RTX 4090D・4070 Ti SUPER・4060 Ti 16GB実験的(各1枚の報告。明示的な指定が要る)
その他のAda世代・RTX A・データセンター向け拒否
RTX 30シリーズ(GA102/103/104/106: 3060 12GB・3070・3080・3080 Ti・3090・3090 Tiの報告)元祖のgpu-unlockの範囲。起動オプションで指定したカードだけに効き、外せば元に戻る
RTX 20シリーズ(Turing: TU102/104/106)別作者の「turing-unlock」(nlzy・GPL-2.0)の範囲。公開された数字があるのは2080 Tiだけ。他の20シリーズは利用者報告か未検証
RTX 50シリーズ(Blackwell)対象外(当方の5060 Tiはここ)

3. 数字の読み方——命令の速さと、アプリの速さは別

ここが一番大事なところです。「165→331」は、Tensorコアに命令を発行できる速さの実測で、アプリ全体の速さではありません。アプリにはメモリの読み書き、行列積以外の処理、GPU間や CPU との受け渡しが混ざるので、伸びは小さくなります。

何を測ったか変更前変更後期待(当方の読み)
Tensorコアの命令実測(4090・BF16・FP32累積)165.5 TF/s330.6 TF/s制限が外れたことの証明。これ自体がアプリの速さではない
同(作者の個体)160.4320.4同上
同(4070 Ti SUPER)95.0189.9同上
cuBLASの行列積(4090・FP16)—+12〜34%実アプリ寄り。行列の大きさで変わり、4096³ではほぼ0
cuBLASの行列積(4090・BF16)—+16〜20%同上
ComfyUIの画像生成(3090 Ti・BF16)72秒45秒画像生成は行列積の比率が高い。動画生成も同じ方向と思われるが報告なし
Krea 2 Turbo 画像生成(3090×2)16.5秒/枚10.6秒/枚同上(2回の出力は画素が一致していない)
LLMのプロンプト読み込み(3090・Strata)3,205 tok/s3,536 tok/s+10%前後。llama.cppでは+4〜7%
LLMの文章生成(3090)96.7 tok/s97.2 tok/sほぼ変わらない。生成はメモリ帯域で頭打ち
LoRA学習(1.7B・3090×4・240W)—+20%学習は恩恵が大きめ。1枚350Wでは1.49倍の報告
ゲーム—変化なしFP32コアで動くので無関係
Tensorコアの命令実測(3090 Ti・BF16・450W)87.5 TF/s157.4 TF/s30シリーズは+80%止まり(4090は2倍)。電力上限で変わり、3090の225Wでは+25%
画像生成(3090 Ti)—+47〜59%30シリーズでいちばん効く用途
LLMの文章読み込み(3090系)—+14〜36%生成は変わらず(帯域律速)
Tensorコアの命令実測(2080 Ti 11GB・FP16・FP32累積)46.9 TF/s93.7 TF/s20シリーズも2倍。別作者の起動前(EFI)方式の報告
cuBLASの行列積(2080 Ti・FP16・8192³)48.1〜52.877.9〜85.2+48〜77%。報告者と方式で幅がある。画像生成・LLMの実測報告は見つかっていない
INT8・FP8・dp4a—変化なし制限されていたのはFP16/BF16のFP32累積だけ

まとめると、「5090超え」は命令実測の話で、行列積で1〜3割、画像生成で3〜4割、LLMの生成はほぼゼロ、というのが10月25日時点で公開されている実アプリの数字です。当方が使っているMiniMax H3(動画生成)での実測は、10月26日の時点で見つかっていません。

4. 当方の機材と並べる

価格は2026年10月の国内の公開情報で、メモリ不足を背景にどれも大きく動いています。時点の目安としてだけ読んでください。

カードVRAM/帯域電力BF16(FP32累積・Dense)価格の目安(2026年10月)
RTX 3090(標準→アンロック後)24GB/936GB/s350W71(公称・FP32累積)→3090 Tiで157.4(実測)中古 海外で1,000→2,000ドル超の報道(10月24日・国内相場は未確認)
RTX 4090(標準)24GB/1,008GB/s450W165 TFLOPS(公称)中古 42.5〜60万円(直近30日の集計)
RTX 4090(アンロック後)同上同上331(命令実測)/実アプリ+12〜34%同上+Linux・冷間起動・保証外
RTX 509032GB/1,792GB/s575W210(公称)新品 77〜120万円(店によって大差・生産終了の噂あり)
RTX 5060 Ti 16GB(当方・×2枚)16GB/448GB/s(1枚)180W(1枚)約47(当方の計算値・NVIDIAの公表ではない)新品 約13.8万円(1枚・10月14日)
MacBook Pro M5 32GB(当方)32GB共用/153GB/s—対象外(別の仕組み)—

読み方を3つ。

  • 当方の5060 Ti 16GB×2の土俵では、4090は元から3倍以上の演算と2倍以上の帯域を持っています。 アンロックは、その4090がさらに行列積で1〜3割伸びる話で、5060 Tiが4090に近づく話ではありません。
  • 動画生成でいちばん効くのはVRAMの量と帯域です。 当方の記録(第17回)では、同じ動画の所要時間を決めているのは主にVRAMに収まるかどうかと帯域で、Tensorコアの演算は次の要因です。アンロック後の4090で10秒の動画がどれだけ縮むかは、行列積の比率次第で、実測が出るまで分かりません。
  • 24GBで中古が4090の半額以下、という理由で30シリーズに注目が集まっています。ただし帯域は5060 Tiの約2倍で4090より下、動画生成の実測報告はこちらもありません。

5. 必要な条件と、代償

  • 20シリーズは電力の注意が別にある。 Turing向けの作者は「Tensorコアは非常に大きな電力を引く。アンロックは機材を傷める可能性がある」と明記しています。試された2080 Tiは電力上限250W・190Wでの報告です。
  • Linuxが基本。Windowsは「起動前にUSBから」の方式。 Windows向けは、USBメモリからUEFI(OSが上がる前の段階)で適用する AD103_win_unlocker があり、4070 Tiと、32GBに改造した4080での報告があります。ただし作者の版は作者のカードとマザーボードに固定されていて、別のPCで動いた報告は1台だけ、電源を切ると元に戻るので毎回やり直し、です。
  • 冷間起動が要る。 電源を完全に切った状態から、ドライバより先にモジュールを読む必要があります。温かい再起動(リブート)では効かないことがあり、ドライバが先にGPUを初期化していた場合は拒否されます。
  • Secure Bootを無効にするか、自分で署名する。 署名されていないカーネルモジュールを読むためです。
  • 検証は「1枚・1回」。 4090の数字は、作者の1枚で、1回の冷間起動から取ったものです。長時間の安定性、複数枚、画面出力との引き継ぎは検証されていません。試した人の環境には、改変したドライバや起動処理の独自の仕込みが混ざっています。
  • 効かない個体がある。 OEM版のRTX 3080 Ti 20GBでは、半速のまま変わらなかった報告があります。
  • 将来閉じられる可能性。 NVIDIAのドライバやファームウェアの更新で使えなくなる、と各記事が書いています。NVIDIAからの反応は、10月26日の時点でありません。
  • 保証外。 非公式の改変で、メーカーの保証は期待できません。NVIDIAのソフトウェア利用許諾との関係は、作者も各記事も扱っていません。試される場合は、ご自身の責任で、規約を確かめたうえでお願いします。

PS5のページと違い、これはゲーム機の保護を外す話ではなく、自分のGPUの動作設定を変える話です。それでも、保証と規約の面では同じ扱いで読んでください。

6. できること・できないこと(2026年10月26日時点)

用途状況
行列積(cuBLAS)4090で+12〜34%(FP16)・+16〜20%(BF16)。第三者の記事が掲載
画像生成(ComfyUI)3090 Tiで72→45秒の報告。4090の報告は未確認
RTX 20シリーズ(2080 Ti)行列積で+48〜77%の報告(Linux・11GB版と22GB改造版)。画像生成・LLM・動画の実測報告なし。VRAM 11GBなので当方のH3の土俵には乗らない
動画生成(MiniMax H3など)報告なし
LLM推論プロンプト読み込みが+4〜36%(実行系と長さで差)。生成はほぼ変わらない(4080 Windowsの報告でも+0.1〜0.9%)
学習(LoRA・MLP)+20〜49%の報告(3090系)
ゲーム無関係

つまり、2026年10月26日の時点で言えるのは「GeForceのTensorコアの半速制限は、Linuxなら起動時に外せる(作者と複数の第三者の報告)」と「実アプリでの伸びは1〜4割で、LLMの生成はほぼ変わらない」までです。「4090が5090より速い機材になった」とは言えません。

7. 続報の置き場

このページは更新型です。次のどれかが起きたら、行を足します。

  • 動画生成(H3・Wanなど)での実測が出た
  • NVIDIAの公式な反応(ドライバでの無効化・声明)
  • Windowsで常用できる版
  • RTX 50シリーズ向けの動き
  • 国内の中古4090の相場が、この話で動いた
  • 国内の中古3090・3090 Tiの相場が動いた(海外では10月24日の時点で上昇の報道)

8. 出典

一次情報

解説記事(2026年10月25日)

価格(2026年10月)


当方はこのページの内容を試していません。数値はすべて各作者・各媒体の公表値で、当方が検証したものではありません。本ページは参考情報であり、改変を勧めるものでも、法的助言でもありません。試される場合は、個人の責任で、保証と利用規約を確かめたうえで判断してください。