この連載、ここしばらく生成AIの話が続きましたが、本業のBotも止まっていたわけではありません。今回は開発史の続き——そして、珍しい形の記事です。いつもの当サイトは失敗を「事後検証」として、決着がついてから書きます。今回は決着がついていません。理論値では勝てるようになった。実弾では、まだだ。その途中経過を、途中経過のまま書きます。
まず、良い方の報告——理論値のカーブが右肩になった
下のグラフは、直近のDryRun(理論値検証)の累積損益カーブです。445トレード、除外なし。縦軸の金額は非公開にしますが、形はそのままです。

見てほしいのは形です。最初の約90トレードは水面下にいます。ここはフィルターやロジックの調整が入る前の期間で、負けを「条件付きで」記録しながら入場条件を締めていった時期。90本目あたりで水面を抜けてからは、山谷を挟みながらも累積は切り上がり続けています。開発史(2)の頃——DryRunですら勝てていなかった時代から見れば、大きな前進です。
誤解のないように書いておくと、これは「勝てるBotができた」という意味ではありません。「理論上は勝てるロジックの形が、ひとつできた」という意味です。この2つの間には、溝が三つあります。
開発史(2)の続きとして——あのときの犯人は「バグ」だった
開発史(2)で「DryRunでは勝てるのに実弾では勝てない」と書いたとき、犯人は実装のバグ(BUY RESET)でした。バグなら潰せば終わりです。実際、あれから実装の不具合は一つずつ潰してきました。
問題は、バグを全部潰した後にも残る差です。それがDryRunとLiveの構造的な溝で、当方の実測では三つに分解できます。

溝① 固定費——小さく張るほど、重くのしかかる
実弾の1トレードには、理論値に存在しない固定費が付きます。ガス代、処理を優先してもらうための手数料、トークンを受け取る口座の維持費。1件1件は小さな額ですが、固定費は取引額に関係なく定額なので、小口で検証するほど利益率を削る比率が大きくなります。
当方はこれを実測で確認しました。検証ロットを10倍にしたら、固定費が利益率を削る割合はきれいに10分の1になった。つまり「小口の実弾検証が理論値より大きく負ける」ことの一部は、ロジックの欠陥ではなく算数です。逆に言うと、小口検証の成績をそのまま本番ロットの期待値として読んではいけない——理論値と実弾の比較は、固定費・比例費・実効率に分解してからでないと意味を持ちません。
溝② 執行——注文は、押した瞬間の価格では約定しない
DryRunの売買は、観測した価格でそのまま成立する世界です。実弾は違います。注文がブロックチェーンに届くまでの時間があり、その間に価格は動き、自分の注文自体が板を動かします(薄い流動性では特に)。買いはわずかに高く、売りはわずかに安く約定する——この「滑り」は1回ごとには小さくても、高頻度で積むと確実に効いてきます。
もうひとつ厄介なのは、理論値と実弾では損益の測り方自体を揃えるのが難しいことです。理論値は一定条件の物差しで測りますが、実弾は実際の約定価格と実際のロットで決まる。当方は一度この混同で評価を誤りかけ、以来「理論の物差し」と「実弾の実測」を別々の列で並記する規律にしています。溝を埋める第一歩は、溝の幅を正しく測れる帳簿でした。
溝③ 地合い——同じロジックが、日によって別人になる
三つの中で、いちばん大きいのがこれです。当方のBotの利益構造は、少数の大勝ちトレードが多数の小さな負けを養う形です。つまり成績は「大勝ちが発生する地合いかどうか」に強く依存します。実測では、大勝ち級の銘柄が出る頻度は日によって桁で違います。出ない日に実弾の検証枠を回せば、ロジックが同じでも全敗で終わる——実際、そういう枠もありました。逆に地合いが戻った枠では、プラスで完走しています。
これの怖いところは、評価を間違えさせることです。良い地合いに走った検証は実力以上に良く見え、悪い地合いの検証は実力以上に悪く見える。当サイトで繰り返し書いてきた「初速で判定しない」「見かけの好成績を性能と評価しない」は、この溝から学んだ規律です。当方は現在、フィルターの価値を「何を稼いだか」ではなく「何を排除したか」で測ることにしています。守りの性能は地合いが悪い日にしか測れないからです。
いまの構え——出口で攻めて、入口で守る
三つの溝を踏まえて、現在のBotは二層構造にしています。出口は攻め——大勝ちを早売りしないことを最優先に設計する。入口は守り——悪い地合いの負けトレードを、入場フィルターでどれだけ排除できるかに全リソースを集中する。理論値の右肩カーブは、この二層が噛み合った結果です。
そして実弾側の経験則をひとつ。社内規律として、DryRunの成績は3〜5割引いてLiveの期待値を見積もることにしています。根拠は上の三つの溝の実測です。理論値が右肩でも、3割引いて、悪い地合いを引いて、固定費を載せて——それでも残るかどうか。いまはその検証の途中です。
正直な現在地
実弾は小口の検証枠を区切って回しています。プラスで終わる枠が出始めましたが、通算ではまだマイナスです。敗因の分析では、ロジックそのものより「大勝ちが出ない地合いに枠を回したこと」が効いた局面が多い——とはいえ、それを事前に見分けて回避するのも実力のうちなので、言い訳にはしません。地合いの判定を入場条件に組み込む検証が、いま走っているテーマです。
「勝てるようになってから書けばいいのに」と思われるかもしれません。でも、このジャンルは「BotでSOLが簡単に増えます」という話で溢れていて、当方はその逆を書くためにこの連載をやっています。理論値で勝てても、実弾にはまだ溝がある——この途中経過こそ、Botを作ろうとしている人に一番役に立つ情報だと思うのです。
まとめ
要点は3つです。第一に、理論値では勝てる形がひとつできた(445トレード・累積プラスの右肩。前半90本の負けの記録が、入場条件を締める材料になった)。第二に、DryRunとLiveの間には、バグを潰しても残る溝が三つある——固定費・執行・地合い。比較は分解してから。第三に、溝があるから理論値が無意味なのではない。理論値は「ロジックの形」を確かめる道具、実弾は「溝の幅」を測る道具。両方の帳簿を分けて持つことが、遠回りに見えて一番速い。
実弾の決着がついたら——勝っても負けても——続報を書きます。
本記事の内容は2026年9〜10月の当方検証に基づきます。金額・ロジックの詳細(入場条件の数値等)は非公開です。本記事は投資助言ではありません。暗号資産の自動売買には元本を失うリスクがあります。

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