ゴルフグリーンで女性が2歩進んでしゃがみ、ラインを読む10秒。旗竿は1本、ボールは1個、前景に余計なものはない。ここまでに焼いたのは4本。
上の動画は、4本目で着地した完成版です。ゴルフグリーンで女性が2歩進んでしゃがみ、ラインを読む10秒。旗竿は1本、ボールは1個、前景に余計なものはありません。ここまでに焼いたのは4本。1本ごとに、直したい所を1つだけ日本語で言い、英文はその1か所だけ変え、同じseedで焼き直す——それを4回繰り返しただけです。
そもそも、何を直したかったのか
前回(33)で完成した動画は、「35mm換算85mm相当・カメラ固定」で指示したものでした。ボールは止まり、動作も通りましたが、構図としては被写体から離れていて、人物が小さい。直したかったのは構図だけです。レンズを200mm相当に、カメラの固定をやめて人物に寄り添う。人物・衣装・動作・ボール・光は、そのまま。
これが、プロンプトだけでやろうとすると難しい。「構図を変える」と書き直すと、人物の動きやボールの挙動まで一緒に変わる。実際、最初に構図を「真横・200mm・水平固定」へ振った1本は、人物が小さいままで、途中で女性もパターも消えました。そこから、1か所ずつ縛って直す方式に切り替えて、4本でこの完成形に来ています。
直したいのは1か所なのに、別の所が変わる
AI動画を作っていると、こういう流れをよく経験します。旗を1本にしたい。プロンプトを直す。旗は1本になったが、カメラの寄り方が変わった。寄り方を戻す。今度はボールが転がる。ボールを止める文を足す。前景に見覚えのない木が生える……。直したい所は毎回1つなのに、プロンプトに手を入れるたびに別の所が動き、何本焼いても「意図どおり」に届きません。
原因は、たいていプロンプト全体を書き換えていることです。自分で書き直しても、AIに書き直させても、同じことが起きます。言い回しが変わる、「整理」のつもりで語が削られる、善意で「無地の芝」のような指定が足される。どれも悪気はありませんが、動画生成モデルにとっては別の指示です。
前回(33)で作ったのは、これを止めるための仕組みでした。今回は、その仕組みで実際に「ここだけ直して」を4回通した記録です。
やり方は4つだけ
- 変更範囲を縛る。 独自ノードは、許可した節の中の「変更前の文→変更後の文」の完全一致差分しか受け付けません。範囲外の変更、一意に当たらない差分、重複は拒否。採用した案は内容のハッシュで照合し、それ以外の英文では再生成しない。
- 1本に1つの意図を、日本語で言う。 「奥のボールだけ消して。他はそのまま」。
- AIの案をそのまま採らない。 Claude Codeが差分案を出し、日本語で変更前後を並べて見せる。範囲を超えて変えていたら差し戻し、1か所に絞る(今回の差し戻しと手直しはChatGPT(Codex)が担当)。
- 同じseed・同じ素材・同じ設定で焼く。 記録ノードが素材のハッシュ・seed・ステップ・解像度を照合し、違えば生成に進まない。
実録: 日本語で言ったこと、英文で変わった所、出た動画

| 本 | 日本語で言ったこと | 英文で変わった所 | 出た動画 |
|---|---|---|---|
| 1本目 | しゃがんでも全身を大きく映して。頭上と足元の余白を小さく | 「しゃがみに合わせてカメラが下降し、必要に応じて前進する」1文を追加 | 寄り方と雰囲気は意図どおり。ただし旗が2本、ボールが動く |
| 2本目 | 旗はカップの1本だけ。ボールは10秒間同じ一点に静止。カメラは正面側から、同じ旗竿越しに | 同じ1本の旗竿であること、正面、ボールを芝に固定、を明記 | 意図どおり。奥に余分なボールが1個 |
| 3本目 | 奥のボールだけ消して。手前の正しい1個は残す。それ以外は変えない | 元の英文に8語だけ追加 | 余分なボールが消えた。代わりに前景に枝状の木 |
| 4本目 | 前景の木だけ消して。遠景の樹林は変えない。旗竿と混同しない。それ以外は変えない | 前景の1文だけ変更 | 木が消え、旗1本・ボール1個・正面・全身はそのまま |
4本とも同じseed・同じ参照素材・12ステップ・672×928・243コマ。英文は採用した案と完全に一致していることを記録ノードで照合しています。
1本目と2本目は、言ったことは通ったが、別の所も変わった回です。1本目で旗が2本になったのは、元の英文に「旗と竿は前景のボケ」と「カップと旗竿は画面外」の2つの記述が残っていて、別物として解釈されたため(Claude Codeの観察)。2本目でそれを「同じ1本」と明記したら旗は1本になり、代わりに奥に小さなボールが1個増えました。
3本目から様子が変わります。
8語だけ足す、1文だけ変える
3本目の日本語の指示は「奥のボールだけ消して。それ以外は変えない」。Claude Codeが出した案は、書式の検査には合格していましたが、7か所を変えていました。本体のボールの指定のほかに、カメラが「必要に応じて」近づくという語を削る、「正面」の重複を圧縮する、背景を「途切れない無地の芝」にする——どれも「語数を空けるため」「同義だから」という理由です。
ここで採らない。カメラの寄り方や芝の模様に効く可能性があるからです。元の英文を一字も変えず、ボールの文の末尾に8語だけ足しました。
No additional balls; replace extras with matching turf.
結果、余分なボールは消えました。代わりに、画面左手前に枝状の木が現れました(上の図の3本目・0秒と3秒)。
4本目の指示は「前景の木だけ消して。それ以外は変えない」。Claude Codeの案は今度は10か所を変えていました。本体は1か所で、残り9か所は「語数のため」の言い換え——光軸が水平という明示を削る、顔へのピント・髪の揺れ・右手でパターを持つ記述を短くする、など。これも採らず、前景の旗竿を描いた1文だけを、意味を保って短縮し、木の置き換えを足しました。
変更前:
Near the lens the single flagstick crosses the left frame edge as a large soft yellow-and-white blur, clear of her face and body, cup and flag top offscreen.
変更後:
Near the lens, the single flagstick crosses frame-left: large soft yellow-and-white blur, clear of her face and body, cup and flag top offscreen; replace foreground trees with matching turf.
日本語にすると「レンズ近くの画面左端に同じ旗竿1本が大きく柔らかい黄白のボケとして入り、顔と身体を隠さず、カップと旗の上端は画面外。前景の木を周囲と同じ芝に置き換える」。この1文以外は、3本目の英文と完全に一致しています。
4本目では、0秒から10秒までの12時点の抜粋すべてで、枝状の木が見られなくなりました。旗竿1本と黄色い旗、手前のボール1個、遠景の樹林はそのまま。女性は歩いてしゃがみ、全身が画面に残り、正面寄りの構図とカメラの接近も続いています。直したい所が直り、直したくない所が残った、が3本目と4本目で成立しました。
なぜ「ここだけ」が通るのか
全体を書き換える方式では、修正は毎回ゼロからのやり直しです。前の本で合っていた所が、次の本で合っている保証がない。1か所ずつ縛る方式では、修正が加算になります。1本目で通った寄り方は2本目でも残り、2本目で通った旗1本は3本目でも残る。だから4本で着地できます。
この方式の意味は、「自分がどんな絵を作りたいか」をはっきり持っていれば、AI任せではなく意図した動画に寄せていけることです。最近の動画生成モデルは、短いプロンプトを入れるだけで驚くほど豊かな表現を返してきます。ただ、それは「指示した人が本当に意図した表現を再現しているか」とは別の問題です。一発で出た絵が気に入れば、それでいい。けれど、例えば受託で動画を作る場面のように、依頼主の意図どおりに作り、指摘を受けた所だけを直し、磨き上げていく必要があるなら、「もう一度プロンプトを入れて別の動画を引く」やり方では届きません。直したい所だけを言葉で指定し、他を動かさずに焼き直せる。今回の4本は、その小さな実例です。
そのために要るのは、道具より先に、人がAIの案を読んで差し戻すことです。書式の検査に合格した案が、意図した範囲に収まっているとは限らない。日本語で変更前後を並べる表示は、そのためにあります。7か所・10か所の善意の言い換えを「範囲外」と判断したのは、検査器ではなく人でした。
もう一つ、同じ条件で焼くことを機械に守らせた点。4本の間に2回、「生成設定が元動画と異なります」でノードが止まりました。古い案が生成側に残っていた回と、ステップ数が8に戻っていた回です。比較の土台が崩れる前に止まったので、4本はすべて同じ条件で並べられています。
条件と、12ステップのこと
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 生成 | MiniMax H3(Ref2VA)・ComfyUI・MacBook Pro M5 32GB |
| 共通条件 | 同seed・同参照素材(ハッシュ一致)・12ステップ・672×928・243コマ・24fps・10秒 |
| 英文の枠 | 全体850語以内。3本目・4本目は変更不可454語・変更可能396語 |
| 1本の生成時間 | 1本目 2時間1分41秒、2本目 1時間48分54秒、3本目 1時間48分35秒、4本目 1時間48分17秒 |
| 確認方法 | 各本から0〜10秒の12時点を抜粋して目視 |
12ステップは、8ステップで目についた背景の縦縞が目視では目立たず(第34回の20ステップよりは速い)、当方がいまの常用にしている設定です。今回の主題とは別の話なので、ここでは条件として書くに留めます。
言えること、言えないこと
- 言える: 日本語で1か所を指定し、英文のその1か所だけを変え、同じ条件で焼き直すと、その意図が動画に反映された(3本目・4本目)。前の本で通った指定は次の本でも残った。
- 言えない: 木やボール以外の画素が同じ、ということ。再生成なので、人物の姿勢・動作のタイミング・画面内の位置には差があります。画像を局所的に消したのではありません。
- 言えない: どんな不要物でも確実に消せる、ということ。今回は2件とも1回で通りましたが、保証ではありません。
- 言えない: 「否定語で消そうとすると逆に描かれやすい」「指定のない余白が枝を生んだ」——どちらもClaude Codeが出した仮説で、今回の実験で因果を確かめたものではありません。
- 確認の範囲: 各本12時点の抜粋。全コマの連続再生・音声・カメラの動きを補正したボールの追跡はしていません。
そして段階0として。この4本の前に、構図そのものを「真横・200mm望遠・水平」に変えた12ステップ版を1本焼いています。人物は小さく、途中で女性もパターも消えました。構図を大きく変えるのは「ここだけ」の外側の話で、そこはまた別の手(参照動画で動きの構造を与える方法)が要ります。次回はそれを書きます。
まとめ
- 直したかったのは構図だけ(85mm固定→200mm追従)。プロンプトだけで「そこだけ」変えるのは難しく、全体を書き換えると別の所まで変わる。
- 独自ノードで変更範囲を縛り、1本に1つの意図を日本語で言い、AIの案は人が読んで1か所に絞り、同じ条件で焼く。
- 構図→旗→余分なボール→前景の木の順に、4本で意図どおりに着地した。3本目は8語、4本目は1文。
- 通った指定は次の本にも残る。修正は加算になる。
- 作りたい絵がはっきりしていれば、AI任せではなく意図した動画に寄せていける。受託のように意図どおりに磨き上げる場面で効く。
環境: MacBook Pro M5(32GB)・ComfyUI・MiniMax H3(Ref2VA)・独自ノード(修正案の作成はClaude Code、差分の適用・記録・採用はComfyUI側のノード、ノードの実装はChatGPT(Codex))。参照: 第33回、第34回、実測早見表。

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